自作CDでのレーベル印刷は、家庭用プリンターのレーベル印刷機能を使うのが、現実的かと思います。私も長らくそうした家庭用プリンターのレーベル印刷機能を使って参りましたので、その経験から得てきた、現実的なレーベル印刷のポイントを、ご紹介したいと思います。通常の紙印刷の参考にもなるかと思います。
●インクジェットは必ず滲む
条件により程度は違いますが、インクジェット印刷は時間が経れば滲みが進行します。私の印象では、総じて盤面のプリンタブルは紙のプリンタブルよりも滲みやすいと感じます。
滲みの進行に影響する要素としては、まずはデザインすなわちインクの使用量、そして盤自体のプリンタブル面の品質が支配的です。(『プリンタブル』は太陽誘電の商標らしいです)
ちなみにプリンタブルの界面は機能性インクによって生成されており、プリンタブル面自体が一種の印刷物と言えるかと思います。よって一般的なインクジェット用紙(塗工=製紙技術?)のプリンタブルとはかなり物性の異なるものと考えます。
●保存版こそ、フルカラー(写真)は避ける
ディスクのパッケージやプリンターの印刷サンプルにあるようなフルカラーの鮮やかな印刷は、当然インクを多量に使い、したがって滲みの進行も早く、「こんなだったっけ?」的な品位の低下が早期に訪れます。メーカーの営業上、写真印刷への対応は必然とは思いますが、記録保存・ライブラリ用メディアへの写真の印刷は不適かと思います。
ただし、様々なデザイン上の工夫で、滲みの進行を遅らせることは可能です。
●単色文字・ロゴのみで定型を作る
社用箋、社用封筒、名刺、蔵書印等の定型の一種として、レーベル用の定型デザインを考えれば、単色の文字・ロゴだけでもある程度格好がつくと思います。
普段使いであれば、十分ではないでしょうか。DVD−Video用定型レーベルの一例。なくても事実上用は足りますが、あれば確実にモノとしてのステータスは上がります。
●滲みやすい色
薄手の紙に写真やベタ印刷をした時に、紙がインクを吸ってシットリヘナヘナになった経験がある方も多いと思いますが、そういう状況、端的にインクの量を多く使う色が滲みやすいといえます。見かけ上一定の濃度を得るのに必要なインクの量は、多い方からイエロー – マゼンタ – シアン – ブラックの順になると考えられるため、混色法で相対的に黄色を多く含む色、すなわち黄100%に他の色を足していくような、濃いオレンジ、茶色などがより多くのインクを消費し滲みやすいといえます。よってそういった色は避けるか極力淡い色に置き換えるとよろしいかと思います。また濃度の高い黒( リッチブラック)も、盤面プリンタブルでは注意を要します。
●『黒』の扱い方
細い線画と太い線画・ベタではデータ上同じ色であっても、印刷すると濃さが違って見えます。すなわち、細い線画は薄く、太い線画・ベタは普通に濃く見えます。例えば同一盤面上に黒の細い文字と太い文字を配置した場合、太い文字は黒100%ではなく、バランスを見て黒に近いグレー程度にすると、見た目も揃い、滲みの進行も抑えることができます。
この例では、タイトル文字は本来黒でしたが。濃度を下げて濃いグレーにしました。
このように、レーベル印刷では黒に近いグレーくらいを、真っ黒とみなして色を調整することによって、経年変化を抑えた印刷ができます。同様、写真の中の黒々した部分も、明るく修正した方が劣化を抑えられます。
(当方の開発したインクジェット+UVクリヤーコーティングでは、ニス引きと同じ効果で彩度が上がるため、その分インク濃度を下げて印刷することができます。加えてコーティングによる湿気の遮断により滲みは判別困難なレベルに固定されます。)
●輪郭に白み
文字や滲ませたくないオブジェクトの周囲は白ないし淡い色の輪郭を設けると、滲みの進行を抑えられます。光彩や白のドロップシャドウと合わせても同様の効果を期待できます。
●シルバープリンタブル盤の使用
太陽誘電のシルバープリンタブルCD−R
同、Amazon限定版
あまり店頭では見かけにくいものですが、シルバー盤は黒の文字・ロゴとの相性抜群です。ホワイトプリンタブルにはない「光沢感」が付加され、一回使ったら気に入ったので、以後シルバーしか使わなくなったというレビューも多く見ます。
一方生物や食品の印刷には適さない面があります(人の顔がウチュウ人になるとされる)。空や海や無機質の画像は、ものによって見栄えが良くなるものがあるようです。
陽光に映える紅葉した樹木の写真を背景に取り入れたレーベルの例、シルバー盤とホワイト盤と同じデザインデータから印刷したものです。
●シルバー限定『レインボウスペシャル』
考案したのはかなり以前になりますが、Web上では初めての紹介になります。
これはごくごく薄い虹色のグラデーションを背景として印刷するもので、シルバーの面にわずかに色がつき「シルバーとは言ってもやっぱりグレー」的な印象を払拭できます。
以下に同じ虹色グラデーションをホワイトプリンタブルとシルバープリンタブルに印刷したものを掲げます。
ホワイトプリンタブルでは、いかにも人工的なグラデーションですが、シルバープリンタブルだとほとんど発色しません。
虹色が背景ですが、トラック番号の枠部分だけシルバーの素地を出してみました。
●シルバー(別称ゴールド)プリンタブルDVD−R
黒文字が綺麗に印刷できます。
DVD−Rは印刷界面に対して反射面が0.5mmほど下層にあるので、印刷の影=本物のドロップシャドウが観察できます。
●デザインそのものの難しさ
円形のキャンバスを好んで使った画家がいないことからもわかるように、円形のものに安定した印象の絵を描くのは至極困難といえます。
方形の中に配置される円形は、デザインとして「あり」かもしれませんが、その逆はいかにもおさまりが悪いと言わざるをえません。
また、レーベル用として、写真の一部を円形ないし扇形、ドーナツ形で切り抜くというのも、まず、成功しにくいと考えざるをえません。
●印刷領域を狭める工夫
少しの文字しか記入する必要がない場合、印刷範囲を意図的に狭めることで、ノッペリした間の抜けた感じを軽減することができます。
リンクデータのテンプレートにも含まれていますが、本来ワイドプリンタブルにはないクランプエリアを(恣意的に)印刷によって再現すると、無用な平面が埋まります。この穴の周辺はもともと下地の陰影がドナーツ状に透けて見えていた部分で、クランプエリア印刷が、半端に見えていた下地のリングを隠してくれるという利点もあります。
白地に限らず、デザイン上のアクセントとして薄く乗せても、よろしいかと思います。
また、昔のレコード盤を模して無用な印刷領域を縮小する方法もあります。以下、当方オリジナルのテンプレートによる印刷イメージです。(市販のオーディオ用CD−Rにも同種の発想による製品があります)LPレコードのイメージ(左), EPレコードのイメージ(右)
こうすれば、少しのタイトルと演奏者名だけでも、間の抜けた感じは軽減されるかと思います。音溝の部分はあまり黒を濃くしない方が品位がよろしいです。
のロゴと演奏時間が入ればなお良いと思います。
●困ったらグラデーション
白地に字のみでは素っ気ない、となると、薄い色でも背景をつけたくなりますが、そういう時グラデーションを使うと、見た目にちょっとゴージャスなデザインになります。グラデーションはそれ自体が滲みなので、品位劣化しにくいといえます。
以下、公称22-119mmのプリント領域を謳っている盤上に24-116mmのアートワークを配置した例です。背景と各オブジェクトを1色の濃淡のみでデザインしています。
●滲みを予測したデザイン
レーベル面のインクジェット印刷の要諦はこれに尽きると思います。
●プリンタブル盤の選び方
プリンタブルディスクは紙のインクジェット用紙と同じく、傾向的にはキメの細かいスルッとした純白のものが印刷結果も良好なようです。(個人の見解です)反してキメの粗い、不規則なボツボツのあるような盤は概して印刷品位が劣るようです。
実態として、日本ブランドの同一製品(一般的には良品と思われる)でも、ロットによってOEM先=原産国や工場が変わっていることもあり、期待した印刷品位が得られない場合もあります。
●印刷範囲をコントロールする
例えば116mmの印刷領域に対して、マージンを取らずに領域いっぱいまで印刷するようデザインした場合
プリンターの精度が完璧であれば問題ありませんが、ほんの少しでもズレた場合、ズレは印刷されない白みになってしまい、結果としてズレを殊更に目立たせることになります。
求める印刷状態
ズレた分だけ白みになって目立つ
印刷領域に対してある程度マージンを設けていた場合
同じだけズレても上の例ほどは目立ちにくくなります。
求める印刷状態
ズレは上の例よりは目立たない
市販用CDの表示基準、日本レコード協会規格「RIS(Record Industrial Standard)203 コンパクトディスク用付属品」によると『白ベタ版』の場合白ベタの外径116mmに対して印刷領域を115mmにするよう定められています。これは外径いっぱいまで印刷しないで、0.5mmマージンを取ることを意味しています。また円周に沿ったオブジェクトやベタ部分が円周ににかからないデザインにするなど、印刷のズレが見立たないデザインにすることが肝要かと思います。
なお、プリンタブル処理(ベタ印刷によって実現している)の端部は印刷品位が安定しないため、業務用プリンタブル盤の中には印刷保証領域を25-116とするなど、余裕を持たせたスペックとなっているものもあります。
以下、定番の各種ロゴと印刷枠のテンプレートです。レコード盤のデータも入っています。
参考)日本レコード協会 RIS203 コンパクトディスク用附属品(PDF 115KB)より