//演奏会録音

IMG_0949吊りマイク装置を使う
いわゆる「◯◯ホール」のような演奏会場はいわゆる「吊りマイク装置」という仕掛けが組み込まれていて、公演の収録用として用いられています。

多くの場合、図のように3本のワイヤーで吊る構成になっていて、有線ないし無線のリモコン、あるいは人力で3点のウインチを回して、吊り位置をコントロールします。
ワイヤーには信号線が仕込まれていて、マイクが拾った音は音響調整室のパッチ架(繋ぎかえる端子盤、新しい施設ではパソコンで制御されている場合もあります)を経由してホール常設の音響卓はじめ、各所に備えられた端子盤に送られます。
吊りマイク装置を利用するにはホールの利用者=興行の主催者が事前に使用を申し入れ、会場使用料とは別に、附帯設備使用料の一科目として料金を支払うことになります。
また、吊りマイク装置とマイクロフォンは別に使用料がかかります。
通常ホール利用日の3-4週間前に、利用者と舞台スタッフとの打合せがありますので、録音の主旨と方法について取り決めます。
吊りマイク装置を使う場合、ホールとしては設備を貸してくれるだけで、同時にレコーダーを借りる場合であっても、基本的にレコーダーの操作は料金にはいっていません。よって利用者側でレコーダーを操作できる人員を用意する必要があります。
ちなみにホールの利用メニューの中に記録録音のような項目があって、特定の料金でホールのスタッフが録音してくれる場合もありますがその場合はホールの壁面に常設されたエアーモニターマイク(記録ではなくモニター=監視用なので音質については何も要求出来ません)の音を記録用とする場合が多いようです。
吊りマイク(オプション)を使う場合、録音は自動的に、ホールスタッフの職責ではなくなります。ので、レコーダーの操作も利用者の責任で行うことになると思います。
吊りマイク用として会場に以下


NEUMANN/SM-69
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SCHEOPS/KFM 6
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DPA/4006
などがあれば、いづれもたいそう高価なマイクロフォンで実績のある素晴らしいものなので、極力借りるに越したことはありません。
写真のような3点吊りが一般的ですが、2点吊り、1点吊りというのもあります。

●マイクを吊る場所
マイクを吊る位置はワイヤーの吊り加減(人力ウインチあるいは有線/無線リモコン)で調整できるので、会場のスタッフに相談し、適当な位置にセットしてもらいます。
マイクの位置による音の変化は、あるときは微妙、またあるときは明確で、一概に指針を挙げることはできません。が、私の場合は直接音がハッキリと聞こえるところにセットしてもらうことが多いです。マイクが近くてナマ過ぎる音に録れてしまった時、後から響きを付加しても、うまくやれば「不自然」にはなりませんが、遠すぎてぼけた音を近くで聴いたように回復することは現実的(音楽的)にはまず不可能だからです。サラダを煮物にすることはできますが、煮物からサラダを作れないのと同じ(?)です。
また吊りマイクに限った事では有りませんが、舞台開口付近の空間には、反響板や床からの反射などの影響で、見かけ上マイクが(演奏者に)近いのに迫力のある音が録れない、ディティールがはっきりしないといったような音響的なデッドスポットがある場合もあります。最終的には自己責任ですが、ホールの音響担当の方のアドバイスをよく聞いて妥当なところにセットしてもらいます。IMG_0909
NT−4改ORTF式

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NT−1000自作延長ポール使用

●リハーサルに先行してセット
リハーサルでの試し録音・録音レベル設定は必須ですので、マイクのセットは(まず早くから会場に入って)早めにやってもらいたいところですが、マイクの位置決めについては、吊り装置のワイヤーがライトなど他の吊りものと干渉する、マイクで照明に影が出来るなど、ホールによって様々な事情があり、またホール独自の手順が決まっている場合もあるので、現場での「待ち」も「妥協」も念頭におくことが必要です。

●会場の機材で録音する場合
打合せ時の確認要目になりますが、ホールには吊りマイクと合わせて各種レコーダーが備えられていて、定められた利用料金で使えるのが普通です。
ホールの担当者から断りがあると思いますが、ホールの機材を借りて録音する場合、借りられるのは機材だけで、録音の操作までは料金に入っていません。基本的にレコーダーを操作する人は利用者側で手当てする必要があります。
また借りる機械に対応したメディア(昔はテープでしたが今はUSBメモリーでしょうか?)は、利用者が用意する必要があります。持ち込みのメディアでは相性が合わない等、予期しない事態も往々にして起り得ますので、ホールのお任せ記録録音も含め、予備的な録音方法を検討しておく方が良いと思います。

●持ち込みの機材での録音
ホール内の音声は写真のようなXRL型(キャノン)のコネクターを介してやりとりされます。

よってこの型の入力端子(+4dBu LINE IN/ファンタム電源付きXLR入力)をもったレコーダーを用意する必要があります。
本サイトでもこちらに情報があります。
家電の店で売っているレコーダーは多くの場合このコネクターに対応していないので(そのままでは)使えません。

●舞台袖等での録音
吊りマイクからの信号は音響調整室のパッチ盤に送られ、そこで、ホールの各所に備えられた任意の端子盤(ないしそれに連なるマルチコネクタ)に送ったり館内放送用に分岐したりして、運用されます。
IMG_0872←端子盤
したがってステージ袖の端子盤に信号を送るよう配線(パッチング)してもらえば、ステージ袖での録音が可能になります。ホールの備品のレコーダーを借りる場合、多くはこの方式になるかと思います。
ホールの機材を借りた場合、ホールのスタッフが接続してくれて「ココのスイッチを押せば録音が始まりますヨ」程度のことは教えてくれるかと思いますが、基本的にレコーダーの操作自体は(責任問題もありますので)利用者側で手当てすることになると思います。


●吊りマイクがないホール
吊りマイク装置がないホールでは、必然的に客席内での録音になります。
客席で聴く音は、いうまでもなく演奏者から発せられる直接音と会場内に響く間接音その他雑音がゴッチャになった音です。マイクロフォンを主体にしてみると、舞台・演奏者よりも客の方が至近にある状況です。よって物理的に演奏よりも客席のノイズの方が大きく録音されます。
人間は目的の音に神経を集中すると、脳が勝手に目的の音と雑音を弁別し目的の音のみを選択的に聞くことが出来ます。客席で演奏等を聴く場合に照らせば、演奏者から直接届く音に神経を集中し、雑音の方を気にしなくなります。客席で演奏等を聴く場合、演奏者から直接届く音に神経が集中します。残響や雑音が多い時にもその中から直に届く音に神経を集中して聴いています。
この状態を直接音・間接音の比率で考えると、実際の状態(マイクが拾う音)よりも直接音を強く意識して聴いていることになります。
よって、録音する場合には、客席でイイ感じに聞こえる場所よりも「こころもち」ステージに近付いて、より直接音が強くなるよう収録することによって、再生した時にイイ感じになります。仮に直接音が強すぎて録れてしまっても、後から残響を加えることはできますが、残響の中から直接音を抜き出すことはできませんので、どちらかというと残響の少ない、ドライな音が録れた方が好ましいと考えます。IMG_0778
バッテリー駆動の機器を使う場合必要ありませんが、電源が必要な場合、会場内のコンセントを用いることになりますが、これも持ち込み機材○○kWまで○○円のような形で電力使用料金が設定されています。
録音の都合を並べましたが、演奏会の主体は言うまでもなく聴衆と演奏者なので、その双方から邪魔にならない=理想的には意識されない、ようにすることが重要と考えます。カナイさんは空席の有無にかかわらず、必要以上の客席を占有いたしません。

●消防法等

会場内は通路の確保が義務づけられており、通路に立ったり物を置いてはいけないことになっています。会場を借りる利用者は、避難誘導の計画(担当者を選任)を作成し、客の避難誘導を行うという誓約を文書上に締結し、利用許可を得ています。(基本的にはそうなっている筈です。)
したがって通路には基本的に何も置いてはいけませんし、通路や客席に電源ケーブルやマイクのコードを這わせる場合にも、会場が暗くなっても人がつまづかないよう、養生シートで覆ったり粘着テープで止めたりしなければなりません。そのために会場では大概、ケーブルを覆うシートを用意しています。粘着テープ類はネバネバが残る可能性があるのでテープに代わる方法があれば極力使わない方が無難ですが、使うなら剥がしやすい養生テープか、リノニウムテープになります。
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●可動席に注意する
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可動式であるオーケストラピットの床は、言ってみれば浮いている=歩くと音が違う(うるさい)のでわかる通り床自体が鳴りやすくなっています。よってピット上の席は余計な音を拾うリスクがあります。またピット上の席、あるいはピットに隣接する列の座席は、取り外して移動出来るように着脱式になっている場合もあり、概して揺れや軋みがあったりします。床と椅子との固定状態をみればすぐにわかります。
また可動式の客席の場合
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仕舞った状態 出た状態
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正常な使用状態でもギシギシ言いますし、ちょっとモノを落としただけでも盛大に鳴ります。マイクを置くには適しません。

●マイクロホンの選択(ステレオペアマイク方式)
マイクロホンは、1本でステレオ収録ができるステレオマイクがもっとも手軽ですが、写真のように左右2本のマイクを左右ペアにする、ステレオペアマイク方式も一般的に行われます。

ステレオペアマイク方式は、2本のマイクの指向性、間隔、開き角度等いろいろな組み合わせが研究され、数種類の定石ともいうべきセッティングが提唱されています。
以下に、ステレオペアマイク設置について参考になると思われるドキュメントを紹介します。(日本語ではありません)

https://gracedesign.com/~gracedes/support/StereoZoom10.pdf
ロマン溢れる高級高品位の録音機器メーカーであるgracedesign社が開示しているステレオマイキングテクニックの参考ドキュメント。範例が具体的で秀逸。
http://www.dpamicrophones.com/mic-university
デジタル録音の黎明期、デンオンのPCM録音で活躍したB&Kマイクロフォンですが、DPAという社名に変わり、現在の4006はホール収録の定番マイクとして用いられています。サイト上の"Mic University "と題されたコンテンツがマイキングに関する定説を網羅し、大変よいテキストだと思います。
http://www.schoeps.de/en/downloads/papers#Mikrofonaufsätze%20von%20Jörg%20Wuttke
ノイマン、DPAと並ぶクラシック音楽収録の定番ショップス。サイト上で公開されている
Mikrofonaufsätze von Jörg WuttkeというPDFドキュメントがやはりマイキングに関する定説を網羅して秀逸。

●空調による「吹かれ」に注意
席の場所と時期(冷暖房の稼働状態)にもよりますが、空調の風が吹きつけてくる時があります。常時ではないので気付きにくいのですが、肌で感じるほどの風があったならば、マイクロホンは相当に「吹かれ」ていると考えられます。人が近くを通過しただけでもあおられます。音がしていないのにレベルメーターがユラっと大きく振れたら、何かしら『吹かれ』ている可能性があります。「吹かれ」の音はボコッとかモモモモっとした鼓膜を圧迫するような音で、きちんとヘッドホンをしてモニターしていないと気づきにくいのが特徴です。特に低音域まで周波数特性の伸びたコンデンサー型マイクを使う場合には要注意です。
空調を止めてもらえば解決しますが、システム上止められない。止める(再稼動する)のに時間がかかるなど、ホールによって様々な事情がありますので、よく確認する必要があります。

時々、Facebookで収録のご報告をしておりますので、よろしかったらお尋ねください。
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ホールの事情がよく分かる、この上ない参考書がありますのでご紹介いたします。
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三好直樹著『まもなく開演〜コンサートホールの音響の仕事』

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